2-1 ヴァイオリンの型(フォルム)にブロックを取り付け横板を接着する。
ヴァイオリン内部にある6個のブロックは上部コーナーブロックと下部コーナーブロックとで大きさ(長さ)が異なります。
カーブの切り返しポイントがブロックの大きさで表現されますので、必然的にカーブが緩やかな上部コーナーブロックのほうが長くなります。
フォルムに横板(Rib)を巻いた時点では左右コーナーは中心線に対して左右対称になっています。しかしヴァイオリンが仕上がる時この左右コーナーは非対称になるのです。(2-4 フォルムを外し裏板を形作る。にて後述)
横板の高さは下部で高く、上部で低くなりますがその寸法は以下のフォルムに記した二重の円弧ラインからとります。
2-2 裏板に木釘を打つ
フォルムを外す前に裏板と上下ブロックとの間に木釘を打ちます。これでフォルムを外しても楽器胴体の長さが変わらないガイドができました。
2-3 仮ネックを作りヴァイオリンの枠に仮付けする。
ライニング(内張り)を接着し、その後裏板(Back)に楽器のアウトラインとなる線を描くのですがフォルムをつけたままではなくフォルムは取ってしまいます。フォルムを取る前に仮ネックを作りフォルムに記してあるセンターライン上に配置し仮付けします。
これはアマティの時代より続く方式で、当時はフォルムを外してまずネックを釘で打ち付けて固定したのちに裏板の形を決定するという方式です。当時のネック(所謂baroque仕様)は先に固定しておかないと最終的に楽器に対してまっすぐにならないためです。
2-4 フォルム(ヴァイオリンの型)を外し裏板を形作る。
ここで初めてフォルムを外していきます。外したら裏板と木釘で合わせておきます。
フォルムを外したことによってまっすぐに仕込んだはずのネックが少なからず曲がってしまいます。
そこでネックを動かしながらまっすぐになるポイント見つけて横板と裏板を固定します。
ここで裏板の形が初めて決定されます。
フォルムを外してネックに力を加え、わざと左右対称であったカーブを敢えて非対称にするのです。
これがヴァイオリンの持つ美しさ、生命力を決定する非常に大事なポイントだと考えます。
左右対称というのは人間の目が嫌うようです。古く古代ギリシャはヘレニズム文化(時代)を代表する『ミロのヴィーナス』の彫刻やレオナルド・ダ・ヴィンチの『モナリザ』、フェルメールの『真珠の耳飾りの少女』に代表される女性画に人々が魅了される要因の一つとして女性の持つ表情の非対称(Asymmetry)によるところがあるそうです。
ただ小さくて高音を発し女性の体の形を連想するからヴァイオリンは女性的とするのだけではなく、銘器の持つ偶然性が生んだ非対称な表情に女性の美しさを重ね合わせ、しかも美しい音を奏でるところにヴァイオリンの底知れない魅力が存在しているのかもしれません。
裏板の輪郭が決まれば後は切り抜き隆起を整え裏側を掘ります。
象嵌細工(パフリング)は先に掘って入れてしまうと、木釘の部分にかかり本体との接着に使うガイドがなくなってしまうので後で入れます。
仕上がった裏板を横板の枠と膠(にかわ)で接着して、表板側のライニングを施します。