~ヴァイオリン製作~ 歴史の探求1

1-1 ヴァイオリン製作の源流を求めて                                

今や、1丁数十億も値段が付くアントニオ・ストラディヴァリ(Antonio Stradivari)やガルネリ・デル ジェス(Joseph Guarneri)等数々のイタリア銘器の持つ美しい音色や評価を目指し、我々現代のヴァイオリン製作者は日々彼らに追いつこうと精進しております。

しかしストラドやガルネリが活躍したイタリアはクレモナにおける製作手法は未だ解明されていません。数多くのクレモナ黄金期を支えた製作者が用いた製作手法は1800年までには消滅してしまいます。クレモナの町からヴァイオリンが姿を消したのです。

クレモナ黄金期に活躍したアレッサンドロ・ガリアーノはその技術をナポリに持ち帰りましたが、家族への伝承を繰り返しながら、大量生産を求められたり気候にあわせるなどして独自の製作手法に取って代わられました。

このように失われた歴史を取り戻すために数多くの研究がなされ楽器の寸法や塗られるニスに対して様々なアプローチが試みられています。そこで私、福田喬史も独自の視点をもとに製作者の立場からヴァイオリン製作の源流を探ってみたいと思います。


1-2 ヴァイオリンの誕生

ヴァイオリンの誕生についても諸説あります。ヴァイオリン誕生以前にはヴィオール属と呼ばれる4度(リュート、ギター、コントラバスなど)調弦がなされるガンバなどの弦楽器が主流でした(中には3度調弦もある)。見た目はチェロに近いのですが指板にフレットを用いたり、ヴァイオリンのようにf字孔ではなくcの形でした。

 

つまり調弦が5度になりc字孔からf字孔に変化を遂げた瞬間がヴァイオリンの誕生ということになります。

厳密にいえばレオナルドダヴィンチも演奏したといわれているリラ・ダ・ブラチオにはf字孔が見られますがヴィオラとチェロとの中間に位置するサイズなので、ヴァイオリンの発祥とは言えないまでもヴァイオリン誕生に向けて大きなインスピレーションを与えたことでしょう。

それまでは様々な改良が加えられてきたヴィオール属がヴァイオリンとしての進化を遂げてからは改良の余地が無いほど完成された楽器として現代まで弦長などを除き、その形、音色が受け継がれています。

起源については時系列的に並べると

①Gasparo Duiffopruggar 1514~  南ドイツ フュッセン生まれ のちにフランス リヨンに移住。現存するヴァイオリンは無し。通称Tieffenbrucker

Andrea Amati  1525?~ 1505?~イタリア クレモナ生まれ クレモナ派(スクール)の創始者。おそらくヴァイオリンサイズの楽器にに初めてf字孔を導入した。

 

Gaspolo da SALO 1542?~ 1540?~イタリア北部Garda Lake の町 サロ生まれ クレモナ黄金期に比べてサイズが小型のヴァイオリンが確認されている。ブレシア派の創始者。


1-3 クレモナ黄金期から製作法を見出す

アンドレア・アマティを祖とするクレモナ派はその後アマティ一族の中で改良を試みながら、二コラ・アマティの代でほぼ製作法を確立したようです。二コラ・アマティの弟子であるアントニオ・ストラディヴァリはそこから更に究極のヴァイオリンを求めて研究、改良を加えました。

しかしながらその製作法は途絶えてしまい、残されたのはストラディヴァリ一族が保管してあった道具やヴァイオリンの型だけでした。

つまりストラディヴァリの型は現存しても、型を形作る理論、計算などの根拠は長らく謎のままです。

ボディの長さ、幅、f字孔の位置、表板や裏板の膨らみ、横板の高さなどなど、どのようにして導き出されたのでしょうか?

前提条件としてミリmm、センチメートルcmなどのメートル法は使わずに説明しないといけません。メートル法が生まれたのは18世紀のフランス革命後だからです。

それまでは人間の体のサイズを基準とした例えば腕の長さを基準とした一腕尺 CUBIT、足の長さを基準としたフィート、親指の長さを基準としたインチを用いていました。

ではその人間とは誰のことを指すのでしょうか?当時ヨーロッパではモナコ公国のような都市国家とよばれる小国の集まりでそれぞれ当主の身体からそれぞれの基準となる長さを決定していたようです。

つまりブレシアにはブレシアの尺がクレモナにはクレモナの尺(cubit)が存在して街の人々はその長さをもとに分割したり(12進法、黄金比など)足したりして生活に活用していました。

 

よくヴァイオリンを説明する際に黄金比が使われるのですが、黄金比と呼ばれるようになったのは19世紀に入ってからで、元は古代3世紀にユークリッドが定義した外中比の事です。一つの線をきれいに(数字的に)わけるポイントが1つだけあるというものですが、その比率が1:1.6180339‥=1:Φ(ファイ)とあらわされます。

さらにΦの二乗は2.6180339  (Φ+1) 、1/Φは0.6180339    (Φー1)などと無理数であるにもかかわらず整数を加減するだけで表せる便利なツールなのです。

この黄金比(外中比)だけでなく整数で分割したりを繰り返しながらヴァイオリンに必要な寸法を導き出したのだと思われます。

ヴァイオリンの下f字孔穴の位置が胴体の長さに対して黄金比になるといわれていますが、銘器をよく観察するとすべての楽器に当てはまるわけではなく、多少の誤差はもちろん意図的に位置をずらしたものもよく見られます。

ヴァイオリンにおける黄金比はあくまで設計における作図が導き出す結果の一つに過ぎません。

クレモナにおけるcubitをもとに分割を繰り返しアマティやストラディヴァリ、ガルネリ等の形を分析していき、必要な線分は金属の板に打刻して独自の定規を作成します。

この真鍮板に打刻した図にはf字孔の位置の決め方、横板の高さ、ブロックの大きさ、表板裏板のアーチの高さ、楽器の上部、c字部、下部のそれぞれの幅などの情報がすべて網羅されています。

それぞれが何ミリ何センチであるかはわかりません。あくまで一つの与えられた長さの線分からヴァイオリンを構築していくのです。

これをもとに実際に製作を開始していきたいと思います。

 

次ページに続く ↓

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